オランダ人の日光浴と北極オゾン・ホール




目次
201210月号
表題: オランダ人の日光浴と北極オゾンホール
特集: そんなに素敵、あなたの日焼けした肌?
参考文献 : 日本語
参考文献: 英語
構成について




2011年に観測史上初めて現われた北極オゾンホール。影響を
うける地域は、円でまれた域を超え、北緯45度付近にまぶ。
北緯52度に位置するオランダも当然影響を受ける。
オランダ人の日光浴と北極オゾン・ホール



 七月は暖かい夏日がなかなか安定しなかったが、八月に入ってようやく夏らしい陽気が続いた今年のオランダ、人々は太陽が顔をのぞかせると外へ出て日光浴を楽しんだ。夏が終わる頃になると、そこかしこで小麦色に肌を焼いたオランダ人を見かけたが、その中には過剰に肌を焼いてしまった人も相当数見受けられた。
 オランダでは、日焼けは文化の一部であるようにわたしには思われる。確かに湿度も低く気温も20度台で推移するオランダの夏、日の下でくつろぐのは最高に気持ちいい。しかし現実としてあるのは、オゾン層問題。もしこのことがなかったなら、わたしもオランダで、もっと太陽の陽を楽しみたいと思えただろう。けれども2011年には、観測史上初めて北極上空にもオゾン・ホールが現れ、その影響は北緯52度に位置するオランダはもちろん、北緯45度付近にまで達した。またこの年観測されたオゾン・ホールは、日本の上空の一部も通過している。オゾン層はこれからどうなっていくのか。そしてそれは、オランダに住む人々の健康に、どのような影響を及ぼしていくのか。今回はこのことについて考えることにした。

PHOTOGRAPHY FOTOLIAPRODUCTION, TEXT, TRANSLATION AND EDITING NORIKO ISHIBASHI


特集:
そんなに素敵、あなたの日焼けした肌?-北極オゾンホールとオランダの日焼け文化
オゾン層問題の経緯
 オゾン・ホールが南極の上空で1982年に確認されてからすでに30年が経過。1987年のモントリオール議定書では、オゾン層の破壊をもたらす化学物質の一部であるフロン(CFC)や臭素を含んだハロゲン元素(ハロン分子)の削減・廃止が制定された。この取り決めが施行されたのは約20年前、以来これらオゾン破壊物質の大気層での量は、1990年代に最大値を記録したものの、それ以後は減少傾向にある。しかし、それまでに放出されたフロンやハロン分子は、この先まだ何十年も大気層に留まり続けるため、オゾンの破壊は現在も進行中。南極のオゾンホールは、今世紀の終わりになっても完全に消えないという見方もある中、フロンガスやハロンガスの使用や放出は、完全になくなったわけではなく、現在においても大量のフロンガスやハロンガスが、議定書の取り決め以前、及び施行以前に製造されたエアコン等から放出されている。加えて、メチルブロマイドなどフロンガスやハロンガス以外のオゾン層破壊物質の中には、規制が引かれていても施行がうまく進んでいないものもあるのが現状。

北極オゾン・ホール
 南極では毎年確認されているオゾン・ホール。改善の兆しは今だみられない。オゾン・ホールの中心では、オゾンの減少率は一日あたり3%。大気圏内では、オゾン破壊化学物質が飽和化して留まり続けており、この残存状態は今世紀半ばごろまで続くとされている。そしてこれは、オゾンの回復がこれから数十年先まで始まらないことを示している。
 一方の北極圏では2011年、オゾンの減少率は、観測が始まって以来最高値を記録。これは、南極におけるオゾン破壊に匹敵する規模で、同年3月には北極でも観測史上初めてオゾン・ホールが確認された。このオゾン・ホールは、数ヶ月にわたって北極周辺諸国の上空でゆらぎつづけ、その一部は日本の上空も通過した。

日焼け、オゾン層、オランダ
健康への影響
 もし、モントリオール議定書をはじめとするこれまでの取り組みがなかったなら、オゾン層は一体どのような道をたどることとなっていたのだろうか。コンピュータによるシュミレーションでは、2065年までに約60パーセントのオゾンが破壊され、さらに2100年までに完全に消滅してしまうという結果がでている。このような事態に至った場合、肌はほんの5分間の日焼けで炎症を起こしてしまうこととなる。
 太陽光線はわれわれの身体にとって、骨の生成維持健康に欠くことのできないビタミンDの生成に必要であり、これ以外にも神経伝達物質のセロトニンやトリプタニンの働きに欠かせない役割を果たしている。しかし、栄養要素と同じように、太陽光線にも適切な量というものがある。
 地上に届く太陽光線は主にUVAUVBから構成されている。UVA90パーセントを占め、残りの殆どがUVBである。この二つの光線のどちらも、皮膚癌をもたらす危険性を秘めている。
 オランダである晴れた日に、日焼け止めクリームをしっかり全身に塗って自宅の庭でくつろぐことにしたとしよう。太陽から届いたUVAはオゾン層で吸収されず、直接肌に降り注ぐ。そして、日焼け止めにもまったく阻止されることなく皮膚の組織深くにまで届いてしまう。肌の深層部で破壊が起きてしまうわけだ。一方のUVBは、オゾン層で一部が吸収され、その残りが地上に到達する。UVBはさらに、日焼け止めによって皮膚への吸収が一部妨げられる。残りは皮膚内へ進入するわけだが、UVAとちがって皮膚の深層部にまでは到達せず、皮膚組織の表面部分のみを破壊する。肌をこんがりと焼いてくれるのは、このUVBによる刺激に対して皮膚の上層部が反応しているためだ。
 オゾンの破壊は、まだこの先30年間は続くとされ、これにより皮膚癌の発生率も上がっていくと予想されている。皮膚癌は実際、太陽光線を浴びてから発症するまで数十年がかかる病。今太陽光線を適切量を超えて浴びている人たちが発症するまでには時間がかかるわけで、従って皮膚癌の発病率のピークはまだこれからだと研究者たちは予測している。
 実際、アメリカでは悪性黒色腫を発症した患者の数は、1975年の数値の2倍となっているし、ニュージーランド並びにオーストラリアの一部の地域では、1994年の数値の2倍となっている。紫外線が地上に届く量は今も増え続けており、皮膚癌患者の数も増加の一途をたどっている。

肌のために
 オランダ人にとって日光浴は文化の一部。ではオランダはもとより高い緯度に位置している国や地域で、人々が健康な肌を保ちつつ小麦色に焼くにはどうすればよいのだろうか。アメリカのNPO非営利団体、エンバイロンメンタル・ワーキング・グルー(EWG)が行った調査では、調査の対象となった日焼け止めクリームの実に84パーセントが健康と環境のための検査基準を満たしておらず、日焼け止めとして不適切と判断された。しかもその中には、肌への使用が疑問視されている化学物質を含んでいるものさえあった。UVAを一部でも防止するものは殆どなく、UVBの防止さえ疑われるものもあった。疑問視されている物質とは、体内で作られるホルモンの受容体と非常に似通った受容体を持つ環境ホルモンのことで、本来のホルモンの働きに非常な支障をもたらしかねない有害物質である。これらの化学物質はまた、DNAの破壊も引き起こすことがわかっている。さらに、日焼け止めクリームの中には、実際の効果を偽った広告内容で売られているものもあり、規制を厳しくするべきという声もあがっている。
 そうなると、肌を守りつつ日焼けをする方法としては、単純なことではあるが、強い光線のもので日焼けをしない、ということに尽きてしまう。まず、午前10時から午後3時までは直射日光を避けて過ごすことが基本。この時間帯の前後であっても、直射ではなく木陰などを利用し、和らいだ陽の下で日焼けをする方が肌にとっては良い。水分をしっかりとって、栄養のバランスの取れた食事をすることも大事。
 太陽光線によるダメージが少なく適切に守られた肌は、皺やたるみの発生を遅らせ、若さを保ち健康的だ。ブロンズ色に日焼けをしたものの、皮膚組織を傷つけてしまい、その結果、皺やたるみの発生を何年も早めてしまっては、何のための日焼けだったのかと思わずにはいられないのではないか。ましては、皮膚癌まで発症してしまうこととなってしまったら……今からでも遅くないかもしれない……正しい方法で太陽光線とつきあい、肌をいつまでも若く健康的に保つ気遣いをしてみてはどうだろうか、とわたしはオランダ人に問いかけたい衝動にかられた。

PHOTOGRAPHY FOTOLIAPRODUCTION, TEXT, TRANSLATION AND EDITING NORIKO ISHIBASHI

参考文献 : 日本語
  1. NHK解説委員室、解説アーカイブス、持論公論「北極オゾンホールの意味」、20111024日 月曜日放送
  2. 独立法人国立環境研究所、2011103日、2011年春季北極上空で観測史上最大オゾンが破壊
参考文献: 英語
  1. Atomospheric science: Fixing the sky, Written by Quirin Schiermeier, 12 August 2009, Nature 460, 792-795 (2009), doi: 10.1038/460792a
  2. Are Sunscreens Safe?: Scientific American, July 22, 2008, Earth Talk
  3. Unprecedented Arctic ozone loss in 2011, Nature 478, 469-475 (27 October 2011), doi: 10.1038/nature 10556, Published online 02 October 2011
  4. Environmental Working Group, The Power of Information, News Coverage: Sunscreen Safe?, Published July 11, 2007
  5. Arctic ozone loss at record level, BBC News Science & Environment, 2 October 2011
構成について

この記事は日本語、英語、並びにオランダ語で記載されています。また英語とオランダ語の記事は日本語のものを抄訳したものであり逐語訳ではありません。

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